朝陽を浴びて、庭先に顔面模様が浮き上がった。

もしかして、他の時間帯だと見落としていたかもしれない。
顔面に見えるこの網糸は、ジョロウグモの巣網である。
目や口にあたる穴開き箇所は、大物の獲物でもかかった痕跡であろうか。
ジョロウグモからすれば、早いとこ修復しておきたいのではないか、と思えた。
「顔」に見える物件は自然界には多く、それらが偶然なのか、あるいは
何かの意図的なものではとか、よく話題になる。
さて、なにが揃えば「顔」と見えるのか?
それは解りきったことかもしれないが、その必須条件は、目と口だろう。
目は口ほどにものを言う、とあって目だけでも顔を連想できるが、
やはり表情に欠ける。
顔というからには眼と口の3点セットは最低限、欲しい。
顔はそのまま表情と言い換えることもできるだろうか。
表情を相手に知られたくない、あるいは素性を隠したい、というとき、
とりあえず覆面をして、目だけは晒すというやり方は、昔からよく使われる。
表情とは感情の表出である。
では例えば、昆虫の顔に表情があるか?
ましてや感情なんかあるんかい!?と思う方も多いことだろう。
昆虫に感情があるかどうかは知らないが、少なくともヤバイ!という状況に
置かれた昆虫がとっさに逃避する行動をとるとき、
私達はそれを見て「ああ、慌てふためいているなあ~」と感じる。
問題なのは昆虫に感情があるかどうかではなく、観察者である人自身の感情が
どう刺激されたかではないか。他の生きものを解釈するとき、
とりあえず人の持てる感情で推し量るしかない。
人は危険を回避しようとして、大抵は慌てふためく。冷静であったほうが良い場合も
あるが、ともかく早く対処しようとして、感情に突き動かされる結果だろう。
昆虫も急いで回避しようとしている、その素振りは外見上は人の慌てふためく姿と
重なる。
まあ、ことはそれほど単純ではないのだろうけど、昆虫の顔をいろいろな場面で眺めて
いると、
「あれ、今は嬉しいのかい!?」
「あれ、アンタはけっこう怒っている?」
「あれ、おいしそうに喰うなあ。」
などと、観察者の想像力が刺激される。
「昆虫の顔」、というのはこれまでにもいろんな写真本で取り上げられてきて、
著名な方の作品も数多くある。
もし私がこのテーマに挑むとすれば、どういった撮り方をするだろう?
どういう気持ちを抱きながら、虫と対峙するだろうか?
自分のことながら、楽しみになってきた。
前に想像力をかき立てる本を作りたい、と書いたけれど、
これからやる仕事ではそのことに一番力を入れていきたいと思っている。
昆虫の生活をていねいに説明するような写真ももちろん撮り続けるだろうけれど、
この先、時間の使い方は変わっていくだろうと感じている。
( 写真/ E-520 ZUIKO D 50ミリマクロ )
『機材の話』
長年使用してきたスタジオ用ストロボ発光部の一つで、モデリングランプが切れた。
たったそれだけのことだが、妙にタイムスリップしたような驚きがあった。

上の写真は、新しいモデリングランプに交換したあとの様子。
画面中央のらせんが透けて見える部分が、ハロゲンのモデリングランプ。
その両サイドのガラス管がストロボの放電管である。
こちらが焼け焦げたモデリングランプ。

驚いた理由とは、このモデリングランプはもうかれこれ15年以上も使用してきたからだ。
自宅での撮影はともかく、依頼されて出張撮影するときには、このモデリングランプの
予備ランプは必ず携行するようにしていた。毎回、仕事に出るたびに予備ランプの所在は
しつこいほどチェックしていたものだ。
出張撮影での仕事とは、百パーセント標本撮影。
銀塩フィルムカメラ時代のスタジオ撮影では、影の出方などを事前に把握するためにも
モデリングランプが無くてはならない補助光であった。
モデリングランプの照明で光の回り具合、被写体の反射の具合を掴み、そして
露出計でどの程度の光量がどの方向から被写体に注いでいるかを確認する。
そう露出計も絶対に欠かせない道具だった。今はモニターに頼ってしまい出番はほとんど
無いに等しい。(それでついこの間、2台ある露出計の電池を抜いてしまった。)
ところが約15年間ものあいだ、モデリングランプが切れることはなく、
予備ランプの封印を切る必要も15年間、なかったわけである。
それがついに、、、、、15年目にして、ついに、、、、、。つまらんことで気持ちが高まった。
私の使うスタジオ用ストロボは心臓部にあたるジェネレータ本体と、
延長コードで接続された発光部とからなる。発光部は3灯ある。
ジェネレーターは4灯まで接続可能だが、発光部1灯だけでも10数万円以上するので
これまで買いそびれてしまったのだ。つまり貧乏だったから、、、、。
もっともライティングする上では3灯あれば大抵は間に合う。それでも不足する場合は、
小型のクリップオンタイプのストロボを加えて増灯している。
そういうとき、オリンパスのスレーブ内臓のストロボFL-36Rはたいへん重宝する。
だから常時2灯のFL-36Rが、スタジオストロボ発光部と並んで、
自在アームの先に待機している。
仕事で使う道具というものには、細かいところまでできるだけ常時、気を配っていたい。
いつ、どこで、日頃順調に稼動してきた道具が急に不調になるやもしれない。
モデリングランプ切れに気付いたのは、数日前のことだったが、
15年間無事だったからという安心感から、予備ランプの置き場所も
一瞬、すぐには思い出せなかったほど、注意力がそこから完全に抜け落ちていた。
日頃から撮影機材の整備、調整は怠れないなあ、と少し反省した。