| 大きく歪んだ顔!その謎は解けるのか? 2008/04/30 | | ニホンホホビロコメツキモドキの産卵は、今がピークのようだ。今朝は4匹のメスの産卵を観察できた。
観察場所は、エンドウ豆の竹柵(写真上)が主で、一昨日設置した産卵トラップはその後メスを誘致できていない。 しかしともかく、エンドウ豆の柵が産卵トラップとして役割を果たしてくれて、今日はメスの産卵行動や交尾など、きわめて興味深い観察ができた。 今日見た産卵メスのうち、オスがマウントしたままのカップルは三組あった(写真中)。
マウントしたオスは口器でメスの上翅背面をなめるような仕草や、あるいは前脚を交互に動かしてメスをなだめるかのような、そんな行動を見せてくれた。産卵行動にあるメスにとっては、オスは邪魔者以外の何者でもないように見受けるのだが、、、。
さて、もっとも関心のあった産卵孔の掘り方であるが、昨日紹介した産卵痕にあるように、四角い産卵孔の両脇に小さな穴が二つ並んでいる。実はこの穴には、大アゴの片方を刺し込んでおき、そこを支点としてもう片方の大アゴで産卵孔を穿つという作業を行なうのであった(写真下)。
昨日書いたように、この穴掘り作業は、ときおりメダケの繊維方向に沿って180度向きを変えながら行なう。 向きを変えるやり方も、一旦前進して産卵孔を踏み越えてから、やおら方向転換を行なうのである。口を中心点にしてそのまま回転移動すれば迅速に方向転換できるのに、と思うのだが、彼女らはじつに厳格な作法に従っているかのようだ。見ていると滑稽にすら感じるほど悠長である。
しかし、このような掘削作業の方向転換が、左右の大アゴの支点の転換につながるかといえば、そうではないのである。どちら向きであっても、掘削作業中には頻繁に左右の支点位置移動を行なうのである。つまり左アゴを支点にしていたのが、それを引き抜いたかと思えば、次は右アゴを支点として突き刺し直すのである。どちら向きであっても同じように。 したがって、掘削姿勢の180度方向転換が、メスの大アゴの大きさの左右非対称の説明にはなり得ないのであった。 ニホンホホビロコメツキモドキのメスの歪んだ顔つき、その極端なまでの左右非対称顔については、未だ謎めいたままなのである。
大アゴの非対称な形態は、その力学的な使い分けをしている、とも考えられるが しかし、それならば似たような生態をもつ他の昆虫種でももっとたくさん、左右非対称な顔つきの昆虫がいても良いはずだが、実際にはそうではない。ニホンホホビロコメツキモドキという種は、その奇異な形態においてきわめて特異な存在なのである。
ただ、メスの前脚の附節が大きく広がっていることは、産卵孔を穿つ際にしっかりと体を保持するために、とても有効であるように思えた。こういう作業を必要としないオスの前脚附節は、メスにくらべて小さい面積となっている。
メス同士の産卵場所を巡る争いが凄まじいことも、初めて観察できた。 すでに産卵孔を穿っているメスのところへ、他のメスが侵入してくると、その侵入者への攻撃は激しく、大アゴでもって相手の体に噛み付きにかかっていく。そして相手が去ってしまうまで執拗に追い回すのである。
そのメス同士の闘争のあいだ、マウントしていたオス達双方はびっくりしたようにメスの体から離れ、オロオロしながら、まことに情けないことに自分の伴侶のメスを取り違えてしまうほど、混乱してしまう。
去年の今頃、昆虫観察に時間を割く余裕が足りなかったと言えば、そうなのであるが、様々な観察ができなかった理由はもっと別にあるように思う。 つまりニホンホホビロコメツキモドキの生態観察が昨年の春にはまったくできなかったことは、引っ越しに伴うドタバタの事情だけではなく、むしろ敷地フィールドの整備が為されてなかったことのほうが大きいと思う。
以前に何度も書いたことがあるけれど、自然観察、あるいは昆虫観察に適した環境とは、人の手が入らないまったくの手付かずの環境ではなく、ほどほどに整備された環境のほうが都合が良いのである。もちろんそれは園芸感覚のみで造成していく公園などではなく、例えば程よく刈り込みや植生のバランスに配慮した管理が施された自然公園などのことであって、そういう場所は、放置された荒れ地などとは比較にならないくらい、生物の多様性が維持されている。 そのことと同じように、私の敷地内の小さな自然環境もこの1年間でずいぶんと様変わりしてきた。小さいながらも菜園や花壇ができたことにより、しだいにそこが自然観察スポットになってきたわけである。 ニホンホホビロコメツキモドキも以前から多数生息していたはずだが、その暮らしぶりを観察しようにも、密生した笹薮や繁茂し放題の草地のままでは、観察の前提自体が成立しようもなかったのだと思う。
奮闘努力の結果は、少しづつ実を結んで来たのではないか、そんな気もした一日であった。 | |