| うちから1分ほどのところの空堀川遊歩道は、ちょうど雑木林の梢が道に沿って庇となっており、ほとんど直射日光が入らない。 そのせいだろう、明るい草地を好むオオカマキリはこの道沿いにはほとんど姿を 見せず、多く見られるのはハラビロカマキリで、その次にコカマキリをよく見かける。
先日、オオカマキリの威嚇行動について紹介したが、カマキリの威嚇行動の写真というのは、そのほとんどがカメラマンに向って構えているのであり、自然界での出来事を捉えた瞬間とは言い難い、ということを書いた。 カマキリが人以外の生きものに対して威嚇行動をとっているところを撮影したい、というのが私の強い願望であり、これまでのところ目撃すら経験がない、というのはいささか情けないとさえ思っている。
ところで今日は、その願望にはまだ遠いのであるが、少なくとも私というカメラマンに対してではなく、同種の相手に対して威嚇ポーズをとっているハラビロカマキリのメスを観察することができた(写真上)。
写真中の画面左が威嚇するメスであり、お腹はほとんどぺしゃんこである。 それに対峙した画面右側のメスは、お腹がパンパンに膨れ上がり、近日中にも産卵するであろうと思われた。 この両者は互いに緊張感が張りつめているかのように、微動だにしない。しかし、わずかに威嚇メスのほうが、ときおり体を揺するような仕草を見せており、「いつでも飛びかかるワよ!」という気配を感じた。 私が近寄って撮影しても両者はまったくこちらには無関心で、ずっとにらみ合いが続いた。まさに火花が空中に散っているかのような緊迫した事態であった。
そして、ついにしびれを切らしたかのように、身重のメスがわずかに前進を試みたその瞬間、腹ぺこメスが身重メスに向ってすばやく跳躍したのであった。
だがしかし、足場が悪かったせいだろうか、ジャンプした腹ぺこメスは、身重メスにぶつかってから、すってんコロリと柵の中段へと落っこちてしまった。
さて、この出来事を振り返ってみると、果たして腹ぺこメスはほんとうに、身重メスを獲物として狙っていたのであろうか? 私は、腹ぺこメスが狩りに失敗した、と一旦は思ったのであるが、、、。
もしかしたら、身重メスを前にして、「これ以上近付くと、容赦しないワよ!」、という警告をするがために威嚇ポーズをとり続けていた、とも言えなくはない。それでも警告を無視して、危険距離を侵して接近して来た身重メスに対して、制裁の鎌パンチを見舞った、という見方もできるのではないだろうか?
私は威嚇ポーズをとっていたメスが、あきらかに空腹であろうと思えたので、同種と言えど、接近して来た相手を獲物として捉えているのではないか、そう最初は考えたのである。実際カマキリの産卵期のメスではそういう共食いも頻繁に起こる事なのである。しかし、狩りの構えとして威嚇ポーズをとる、というのはなんだかそぐわない行動と、あとになって考え直したのであった。まあ、実際のところはよくわからない。
どんなに普通種であっても、昆虫の行動の野外観察を積み重ねることは、決して容易ではない。その一つ一つを解明しようなどとは、夢のような話だと私には思える。せいぜい探偵気取りで推理を楽しむのが良い、と思ったりした。
(写真上/E-500 マクロ35ミリ。写真中、下/E-330 魚眼8ミリ) | |