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2003年:7月 | 8月 | 9月 | 10月 | 11月 | 12月

ゴマダラチョウ幼虫とクロアゲハ蛹 2003/11/01
10/25から注目してきた3頭のゴマダラチョウ幼虫たち。1週間目にして体色の変化はない。ところが今朝、この3頭のすぐ側であらたに2頭見つかった。迂闊にも見落としであったようだ!そのうち1頭は、御覧のごとく葉っぱの黄色に溶け込むまでになっている。こうした体色の変化は葉っぱの上にいる段階で進行するものが多く、大抵は完全に茶色へと移行してから落ち葉へ降りる。けれど落ち葉の下に降りてもなお緑色のままの、のんびりタイプもいないわけではなく、私は2例を見ている。のんびり屋というより、さっさと急いで降りたせっかちタイプであるのかもしれないが。

10/20にアップしたクロアゲハの蛹。くっついていた場所はイヌシデの幹だ。そしてクロアゲハ幼虫が育ったのはすぐ近くにあるカラタチの生け垣であろう。蛹を逆光でよく見るとクモの糸が多数張られていることに気付いた。クモにとって蛹は木の一部であり、巣網の足場としては手頃な出っ張りだったのだろう。長い冬を乗り切らなければならない蛹としても、日々こうして自分の体が木の一部に溶け込んでしまうと都合がいいはずだ。蛹の位置はちょうど大人の目線の高さだ。散歩する人がすぐそばを通るのだが、さて気付いた人がいるだろうか?
新開 孝

ゴマダラ幼虫とエゴノキの種子 2003/11/02
昨日の今日である。ゴマダラ幼虫たちの様子にさして変化はあるまい、と思っていたのだが、トッ、とんでもない!昨日アップしたばかりの黄色い幼虫はすでにうっすらと茶色味を帯びていた。エノキの葉もいくぶんか黄色くなっている。これは午前中の写真。予想より進行が速いようなので今夜も見ておいた方が良さそうだ。他の幼虫たちの体色変化は微々たるもので、2頭は暖かい日射しを受けてのんびりお食事中であった。


中里の林でおばあちゃんが腰をかがめて何かを拾い集めていた。
私:「おばあちゃん、これ、集めてどうするん?」
おばあちゃん:「お遊びに使うんですよ。」
私:「お遊び?もしかしてお手玉!ほおかな、あずきの替わりかや! 写真、撮らさしてや、ええですか?」
エゴノキの種子は釣り餌ばかりではなく、お手玉にも使うという実例に初めて出会った。「私なんか撮らなくてもそこの大学にいけば、、、、。」「あの、おばあちゃん、私なあ、、、も嫌いじゃないんやけど、虫とか花とかも好きなんよ。」
新開 孝

サンゴジュハムシの卵とゴマダラ幼虫 2003/11/03
10/31にアップしたサンゴジュハムシ、この時期はさかんに産卵している。その産卵痕はまるで牛糞をなすりつけたようで、たいへん目立つ。メスはガマズミの枝の表面をかじって浅く掘りそこへ卵を産み込む。その後分泌物を塗り付け卵を覆い隠す。したがって牛糞のような塊が産卵の回数だけ連なって枝表面に残っている。(写真上)ではガマズミの左の葉の付け根から、頂芽の下まで黒褐色のかたまりが付いているのがわかる。



牛糞状の蓋は簡単にはずれる。するとぎっしり詰め込まれた丸い卵が見える(写真中)。一つの窪みには10数卵程が並んでいる。手元の文献で調べてみると、このまま卵で冬越しし孵化は来年の3月下旬ころという。成虫は年一回、7〜10月頃現れる。植木のガマズミやサンゴジュに大発生し夥しい被害を出しているので、このハムシに気付いている方も多いことだろう。



さて、昨日のゴマダラチョウ幼虫だが今朝(写真下)には体の茶色味がいっそう強くなっている。エノキの葉も縮んできた。葉が落ちることなく枝に留まっているのは、幼虫が吐いた糸の束でかろうじて繋ぎ止めているからだろう。
こうして日々の昆虫、林の様子などを窺っていると秋の深まりと同時に、すでに初冬の到来すら感じる。そういえばベランダ外壁のコアシナガバチだが、昨日の暖かい日射しのなかで団子状のハチたちはかなりの数が巣を離れていった。おそらく新女王たちだったのだろう。離脱後、どこでどうやって冬越しするのだろう?コアシナガバチの越冬する姿は、ごく普通種であるにも関わらずまだ一度も見たことが無い。
新開 孝

ゴマダラ幼虫、落ち葉と化す! 2003/11/04
今朝は風が少しある。11/1から注目してきたゴマダラチョウ幼虫。
止まっているエノキの葉は枝から完全にはずれ、幼虫のかけた糸でかろうじて繋がっているだけなので、風が吹くとぶらぶらと大きく揺れていた。幼虫は頭を下向きにしていたが(写真上、午前11:04))、やがて上向きに戻った。葉はひどく萎れている。ここまで状況が変化すると、今夜あたり幼虫は行動に出るのではないだろうか?しかも今日は暖かい。
私は部屋で本の構成案を仕上げていたが、どうも幼虫が気になってなかなか捗らない。

午後6:11、葉の上に幼虫の姿が無い!慌てて近くの枝を探すとすぐ近くを歩いている姿があった(写真中)。おお、ついに降りますか!期待を込めて見つめていると、Uターンして元の葉に戻ってしまった。葉に落ち着いたときの格好がまたもや下向きである。午前中見た時下向きだった理由がこれでわかった。おそらく午前中にも一度、幼虫は葉から離れていたのだ。その行動がどういう意味なのか考えが及ばないのだが、とりあえずは部屋に戻る。



さて、午後7:20。懐中電灯を下げて幼虫を見に行く。なんだかヤバそうだ。やはり!またもや幼虫の姿が無い!近くの枝にも居ない。
ついに今度こそ降りたのか!急いでエノキの根元を見渡すと、いた!
なんと落ち葉に頭を突っ込んでじっとしている幼虫が見つかった!
コンクリートの際に生えた小さなエノキ。そこの地面には落ち葉がほんのわずかしか溜っておらず、そのおかげで幼虫発見に至ったのだが、しかし幼虫にとっては災難のようだ。いずれ幼虫はもっと居心地の良い、落ち葉のたんまりとあるねぐらへと移動しなければならないだろう。
新開 孝

コアシナガバチとデジカメ 2003/11/05
11/3にも書いたが、コアシナガバチの巣はいよいよ寂しくなった。
巣の底面に残っているのは10数匹のみだ。ベランダから覗き込んだだけではハチの姿がわずかしか見えない。そこで今朝はコンパクトデジカメを巣の真下に差し入れ、撮影してみた。巣底面と地面のあいだの隙間は20Bほどしかない。ファインダーを覗かなければならない一眼デジカメでは撮影不可能である。液晶モニターが自在に動くコンパクトデジカメはこういうとき役に立つ。

デジタルカメラについて思うことは、この液晶画面でリアルタイムに撮影結果が確認できるというメリットが大きい、ということ。その点では一眼デジカメは銀塩カメラがデジタル化していく過程の姿でしかないのかもしれない。液晶ビューファインダーやモニターの画質にはまだまだ頼り切れないものがあって、一眼デジカメが光学式ファインダーの圧倒的優位さを保っているのが現状だが、やがて液晶モニターなどの画質がもっと向上できるならば、この形勢は逆転するのではないか。それが高望みであるとすれば、せめて現状の一眼デジカメでも、例えばミラーアップすればリアルタイムな液晶モニターが可動し、なおかつそれが自在アングルで動くという補填的システムがあれば、非常に便利であろうと思う。もちろんシャッター機構の問題があるからそう簡単にはいかないのだが。
人の生理的には光学式ファインダーの方が、断然良い。撮影していてストレスがこない。気持ち良くシャッターが切れる。が、デジカメの持つ長所を生かせる場面で、ファインダーから目を離せないというストレスを感じる。そういう点をカバーするためにもコンパクトデジカメは欠かせない撮影機材として、たいへん重宝している。コンパクトデジカメのさらなる進歩を願って止まない。
新開 孝

バナナムシとコミスジ幼虫 2003/11/06
午前中は雨。正午過ぎになって一気に日射しが戻って来た。中里の
林に行ってみる。クヌギにいたヨコヅナサシガメ幼虫の姿が一頭も無い。昨夜からの雨でクヌギの幹は黒光りしている。幼虫たちは何処かに避難していると思っておこう。
ツマグロオオヨコバイ(写真上)は様々な葉っぱで汁を吸う姿が多い。それもほとんどが葉の裏側だ。私の子供が御世話になっている保育園ではこの虫を『バナナムシ』と呼んでいて初めて聞いた時にはなるほど、と感心した。バナナムシは時々尻から大きな水滴をプチンッ!と弾くのだがその撮影は今だ実現していない宿題である。

クズの葉にでーん、とコミスジ幼虫が構えていた(写真中)。葉っぱの中央、付け根よりに陣取り「ここはわしの領地じゃあ!」と言わんばかり。しかし、あたまをえらく傾げて誰かに謝っておるかのような姿勢は何だろう。そういえば肩のあたりの角が闘牛を連想させる。「来るなら、来い!」というところか?誰に向ってやん!?
もうしばらくすればこの幼虫も枯れ葉に身を寄せて、冬ごし態勢となるはずだ。


10/23の「ある記」で触れたセンチコガネ死体事件。その後もあの場所は通るたびに注意して見ている。特に地面だ。あれからオオカマキリの後ろ翅、カメムシの前翅などの残骸を見つけ、そして今日はヨツモンシデムシ(写真下)とクロシデムシの死骸ときた。しかしこの一連の昆虫死骸事件の真相追求はほとんど進展していない。上空の枝や目の届く範囲で鳥に関する痕跡も探してはいるのだが、いまだ手掛かりが無い。この捜査はどうやら長丁場になりそうだ。
新開 孝

赤色黒星クモ!? 2003/11/07
発見とはいつ訪れるか、わかったものではない。自分のよく知っているはずの身近な、例えば毎日乗っている自転車でさえ、ほんの少し目線を変えてみると、あれここの部品ってこんな形だっけ?よく見ると凝った形しているなあ、とか。つまらないことかもしれないけれど小さな発見は突然、目の前に現れるものだ。しかし自然界はさらにそれが凄まじい。心臓がバクバクなるほど強烈にやって来る。
橙色の小さなクモ。円網のまん中に陣取って空中浮遊するクモだ(写真上)。綺麗やなあ!素直にカメラを構えます。バッシャン!

で、お腹側から撮影してさっさと私は次ぎなる場所へと移動します。おお、ハサミツノカメムシ。もう越冬カラーに衣替えかや!ちょっとお尻見せてや。ありゃ、♀かや!ごめんなさい。うん?バナナムシ、昨日と同じままの葉っぱにおるがな!夜明かししたん?おおう、キノコムシさん、ずっと励んでおりますなあ。その彼女、前とは違うよ!で、橙色の小さなクモにまたもや出会す。ありゃあ!まるで黒星テントウムシやんけ!(写真中)さっき、ちゃあんと背中側見んかったがな!しもた!体長5ミリないなあ。「シロスジショウジョウグモ」?うーん、種名はよくわからんがな。誰か教えて下さい。



イヌシデの葉っぱ(写真下)。きものの柄にでもしたいです。
新開 孝

アリのヘリポート 2003/11/08
午後3時頃、中里の林のなかでキイロシリアゲアリの羽アリが多数見られた。林の遊歩道に沿って打ち込まれた杭の上から、次々と新女王が舞い上がっていく!そこはさながらヘリポートのようである。すぐ近くの地面にはアリの巣口があって、行列が杭の頂上まで出来ている。新天地への飛び立ちにはうってつけの発射台だ。行列には働きアリも混じっている。杭の頂上、ヘリポートにも働きアリの姿が見られる。最後のお別れをしているのか、無事新女王が飛び立てるのを見届けるのか、あるいは警護なのか、とにもかくにも慌ただしい雰囲気である。

30分もするとしだいに羽アリの数は少なくなった。飛び立つ瞬間を撮影しようと試みたが、これはかなり難しい。翅を震わせていよいよ離陸か!と思わせても大抵はそのまま歩き出してしまう。と、いきなり何の兆候も見せなかった隣の女王が一気に飛び立ったりするのだ。これら羽アリはつい先日から林のあちこちで見かけていたのだが、巣穴から出て来て飛び立ちの瞬間まで見れたのは、今日が初めてである。





昨日はハサミツノカメムシの♀だったが、今日はセアカツノカメムシの♀が見つかった。左翅がひどくねじれており元気がない。手にとって見ると後ろあしが付け根からとれており、なんとも痛々しい姿だ。これは鳥に襲われたための損傷であろう。カメムシの体はよく見ると紡錘形であり、手に捕ろうとしてもするりと滑ってしまう。おそらくは鳥の嘴からもそのようにして、逃げおおせたのではないか?


ベランダのコアシナガバチは昨日まで15頭いたのが、今日の夕方には数が半分くらいに減っていた。明日にはいよいよ空き巣になってしまうのだろうか?
ゴマダラ幼虫たちはまだ4頭を継続して見ているが、1頭を除いた3頭は体色が黄色か、茶色にまで進行した。とくに茶色の幼虫は葉っぱも萎れており、明晩あたり地上へ降りるかもしれない。
新開 孝

恐怖!!アブの襟巻きトラップ 2003/11/09
残る4頭のゴマダラチョウ幼虫たちについては毎日撮影しているので、近い内に一度は取り上げようと思っていたのだが、今日はそれどころではなくなった。
昨日、エノキの小枝でヒラタアブ類の幼虫を見つけたのだが、その時点ではあまり深くは考えず撮影した(写真上)。御覧のように枝を抱き込むように静止している幼虫である。私はこのポーズの幼虫を今までにも何回か見かけているのだが、おそらくは脱皮するための休眠姿勢なのでは?そう勝手に理解していたのである。今日はそれを確かめる程度の軽い気持ちで、この幼虫を再び訪れてみた。
ところがである。昨日撮影したときには幼虫はこの1頭しかいなかったと思い込んでいたが、今日はなんと大小併せて8頭もの幼虫たちが狭い範囲の枝上に、しかも皆同じ格好で見つかった。これは何かあるな!つまりこの幼虫たちのまさに「襟巻き」ポーズは脱皮休眠などではないように思えた。私はしばらく彼らの様子を見てみることにした。するとである。そのうち白い綿クズを全身に被ったエノキワタアブラムシ1匹が葉っぱから枝へと歩み始めた(写真中)。やがてアブラムシの歩む先に視線を進めていくと、かの襟巻き幼虫がいる。おっ!私は咄嗟にカメラを構えた。
ゆっくり歩むアブラムシが襟巻き幼虫のお尻のあたりに触れた途端である!なんと幼虫はおもむろに体前半部を枝から浮かし、頭部をねじるようにしてアブラムシを喰わえ込んだのだ!「ギャオー、ググググェ!」という悲痛なアブラムシの断末魔の声、こそしなかったがまさに壮絶なシーンが繰り広げられたのであった(写真下)。ヒラタアブ幼虫たちは、襟巻き状の姿勢をとって枝に一体化し、いつかは通り来る獲物を待ち伏せしていたのであろう。これぞ『恐怖の襟巻きトラップ』である!
エノキの枝をさらに細かく観察してみると、アブの卵の殻、そして孵化したばかりの小さな若令幼虫も次々と見つかった。また、枝に巻き付く格好で脱皮殻も一つあった。襟巻きポーズは脱皮休眠時の姿勢でもあったようだ。
しかし、このアブ幼虫の捕食行動はいささか奇妙でもある。エノキワタアブラムシは、エノキの葉裏にコロニーを形成しているのだから、そこへ陣取っておればいいのではないか。事実、ヒラタアブ類の幼虫がアブラムシのコロニー内に体を横たえ捕食に励んでいる姿が、他の種類ではよく見かける。その場合アブの親もアブラムシコロニーの近くに卵を産み落としていく。葉っぱからときたま移動のために枝を歩むアブラムシをねらうという戦法は、はなはだ効率悪そうに思えるのだが、そこにはそれなりの事情があるのかもしれない。ここ一ヵ月あまり晩酌を断ち、ほぼ断酒状態であった私。しかし今夜は、この興奮したままの頭を冷ますためにも、冷酒を一杯やろうかと思う。晩飯もそれにふさわしく、おでん!である。
新開 孝

オキナワツノトンボ幼虫とゴマダラ幼虫 2003/11/10
霧のような雨のなか、ゴマダラチョウ幼虫たちはひたすらじっと
しているだけ。体は雨水で濡れて光っている。特にすっかり茶褐色となった幼虫(写真上)は葉っぱも萎れているが、雨と低温で地上に降りるタイミングが遅くなっているようだ。(写真中)の幼虫は9/19に初アップして以来、同じ葉を台座としてもうじき2ヶ月弱となる。もちろんその間には食事のたびに他の葉へと出掛けているが、この葉っぱは余程落ち着けるお宿のようだ。この幼虫もようやく体色が黄色味を帯び、さらに茶色の粒子も増え始めている。
このようにして日々撮影しながらこれまでゴマダラチョウ幼虫の体色変化をいろいろ見てきたのだが、その変色の進行ぶりには台座にしている葉っぱの状況がどうやら少なからず影響していると思われてならない。エノキの葉が葉緑素を減じ、黄色くなっていく過程が速いところでは、幼虫の体色もそれに呼応するかのように加速していくのを何例か見ていると、そう考えたくもなる。厳密に調べてないのでもちろん感触に過ぎないのではあるが、葉っぱの生理状態などを幼虫は体のどこかでちゃんと認識しておるのではないだろうか?どうもこういうことをきちんと調べておかないのが私のルーズなところでもあるが、そういった仕事は昆虫学者の領分でしょう、と逃げておこう。
さて、話題はまったく違うのだが私の部屋で飼育しているオキナワツノトンボ幼虫。(写真下)のごとく大きくなった。今年の7月、石垣島でどうしたわけか私のTシャツ襟首に軟着陸した幼虫だ。飼育とはいえ、ごくたまに生き餌をケースに入れておくだけのこと。家の中にはハエトリグモ類がよく徘徊しているからそれが主な餌である。クモはやがて体液を吸い尽くされて干涸び、ケースの底にころがっている。オキナワツノトンボ幼虫はこのようにほとんど動くことなく木の枝に一体化したまま、もう3ヶ月以上を過ごしている。
新開 孝

襟巻きトラップ、再び 2003/11/11
雨が降る中里の雑木林にはさすがに人の姿がない。普段なら散歩や
運動する人がひっきりなしに脇をすれ違うのだが。おまけに今日は寒い。さて、一昨日の『恐怖の襟巻きトラップ』のヒラタアブ幼虫は、結局3匹を飼育しているのだが、これは成虫を羽化させ種名を調べるためでもある。餌となるエノキワタアブラムシを採集しながら林のあちこちのエノキを見て回った。すると幼虫はそこかしこでもポツポツ見つかるのだが、最初に見つけた木が一番生息密度が高いこともわかった。もっともその木は背丈が低くて見渡し易いという条件も備えている。餌を集めているうちにエノキワタアブラムシのコロニー内でアブラムシを暴食する別の種類のヒラタアブ幼虫も見つかった(写真上)。鎌首を持ち上げるようにしてアブラムシを食べているが、この習性は『襟巻きアブ幼虫』も同様。しかし大きく違う習性としてこの幼虫は積極的に歩き回り、獲物を物色することである。その点、前にも書いたが『襟巻きアブ幼虫』はやはり待ち伏せ型である。飼育している『襟巻きアブ幼虫』を見ていて面白いこともわかった。(写真中)のように幼虫が巻き付いている枝の径が体長より大きいと、襟巻きの頭部と尻のあいだには隙間、つまりトラップの盲点ができてしまう。そこを悠々とアブラムシが通り抜けていくのである。まあもっともその頻度はそう高くはないから『襟巻きアブ幼虫』の通せんぼはアブラムシにとって恐怖であることに変わりは無いのだが。今日は林で蛹になったものはないか、その点も探ってみたのだが若い幼虫がけっこう多く蛹は見当たらない。蛹化にあたっては移動するのかもしれないが?

先月末、ヒヨドリジョウゴの実の写真のところで試食はまだしていないことを書いたが、今日は雨に濡れた実がおいしそうに見えたので一個口に入れてみた。するとこれはすこぶる苦い!汁がたっぷりで一味目ではいけるかな?と思いきや一気に苦味が口に広がった。ヒヨドリの味覚はどうなっておるのだろう。実の中には大きな白い種子がいっぱい詰まっている(写真下)。
新開 孝

クヌギカメムシとキリガ 2003/11/12
日射しがあるとやはり気持ちがいい。子供を保育園に預けたあと、そそくさと出掛ける準備をする。必要最低限の機材類を抱え、おっと忘れてはならない請求書の封筒。大学前のポストに投函してから中里の林に出向くと(写真上)、さすがに今日は朝から散歩の人も多い。10分も歩かないうちに私のカメラを見ていきなり「この板は何ですか?」と尋ねるおじさんにさっそくつかまった。こういった好奇心丸出しの人もいて(もうこの手の人格者にも慣れました)私はほんのちょっとズッコケタ振りをしつつも「はい、これはストロボの光りを柔らくする工夫です。」と丁寧にお答えする。それ以上の会話には乗らんぞ!とにこやかな表情の裏には冷たい気持ちをみなぎらせているのだが、敵もしぶとい。「何を撮っているんですか?」ときた。聞いてどうする!と出鼻をくじかれちょっと機嫌が悪い私は、満面の笑みを浮かべながら「昆虫ですウ。」このフレーズも今までに何千回と口にしたことか。「えっ、昆虫ですか!へえーいろんな人がおるもんですなあ!」うーん、感心してもらってもなあ、私はどうすればいいのですか?「このあいだは、トンボばかり撮っているという人に会いましたよ!アカトンボといっても種類は多いんですね。というか、その人が言うにはアカトンボという名前のトンボはおらんそうで、いやあ、びっくりしました。」そうなんですが、しかしどうやらこの先の会話のつながりが見えてこない。「いやあ、お邪魔して失礼!では」おっ、あっさり退却してくれた。私の気持ちが伝わったのか。それはそれでびっくり!と、ほっとするのも束の間、敵は歩き去ったと思いきや、踵を返しUターンしてくるではないか!なによ、何なんだよ、かんべんしてよ!「このあいだねえー。」おいおいコロンボ刑事ですか!あなたは。「あのねえ、こんな蛾がいたのを見たんですよ。綺麗な模様でね。」と地面の枯れ葉をちぎっての説明が始まった。大きさからしても模様の説明からしても、どんな蛾なのかまったく検討がつかない。「蛾はこの辺りでも何百種類といますからねえ。」私は逃げの台詞を探す、探す!およそ時間を持て余し散策する人達ののどかな時間と相乗りしながらも、私の孤独で壮絶な仕事はもう始まっているのだ。なんと長い前書きであることか!
で、今日なすべきことはちゃあんと考えて動いておりますよ!
まずその1。『襟巻きアブ幼虫』がアブラムシコロニー内で暴食してないかどうか?この反証例を探ること。
その2。『襟巻きアブ幼虫』トラップの隙間問題の検証。
その3。クヌギカメムシは産卵しているか?
その4。ゴマダラチョウ幼虫はどうなった?
その5。ヨコヅナサシガメ幼虫たちどうなった?
他、いくつか。

まず、その1、2については明日改めて書き込みたい。問題を今一度、整理しておく必要がある。
その3。(写真中)クヌギの幹で産卵中のクヌギカメムシ。いました!腹部気門が黒色であり、間違いなくクヌギカメムシ。ただし産卵していたのはこの♀1頭のみ。もう1頭見つけたメスは「ヘラクヌギ」か「クヌギ」かどうか確認できずに逃げられてしまう。
その4。残る4匹の幼虫、いずれもまだエノキの葉上に留まったまま。
その5。ついにここ数日、幼虫の姿を発見できず!
他、いろいろあった中で、このキバラモクメキリガ登場。(写真下)ケヤキの根元に佇んでいたが、軽く触れると死にまねをして落ち葉にころがってしまった。初冬から羽化するという蛾で、真冬の樹液に飛来する。なんとも変った枯れ枝そっくりの蛾。
新開 孝

晩秋のキリガ、クヌギカメムシ、他 2003/11/13
さて昨日アップした「キバラモクメキリガ」はキバラ、モクメ、キリガと切って読んでもらうとわかりやすい。キリガ類という蛾のグループがいて、これらは秋深まってから成虫が羽化してそのまま冬を越し、2月から3月にかけて活動する。今日もそのキリガ類の一種が見つかった。羽化したてなのか翅が新鮮だ(写真上)。「ノコメ、トガリ、キリガ」だろうか?種名については後日、再確認したい。キリガ類は冬咲くツバキやキブシの花、そして樹液にもやって来る。特に真冬の樹液に蛾が集まっているという光景を目にすると、昆虫たちの驚異的な世界にあらためて震撼する。

クヌギカメムシは昨日もアップしたばかりだが、今日も今シーズン第2号を観察できた。つまり昨日の写真が第1号だったわけである。今日の2号目が産卵していたクヌギの木は、実は今まで私がヨコヅナサシガメ幼虫を観察してきたクヌギということもあり驚いた。(残念ながらヨコヅナサシガメ幼虫たちはついに姿を消してしまったようだ。)昨日も書いたがクヌギカメムシにはもう一種ヘラクヌギカメムシというのがいて、クヌギカメムシと混棲している。近年、クヌギカメムシの方は数が減っているらしいが中里で撮影できた1号、2号ともにクヌギカメムシであった。ヘラクヌギとは非常に似ているため背面からの識別は難しいが、メスの腹部の気門を見ればいい。気門が黒ければクヌギカメムシである(写真中)。晩秋に限り、しかもゼリー状の物質に卵を包み込みながら産卵するというクヌギカメムシの習性はたいへん興味深い。その生態の詳細は拙著『珍虫の愛虫記』を参照されたい。

ゴンズイの実の中でシロジュウシホシテントウ2頭が潜んでいた(写真下)。今日はかなり寒い。こうして逆光で透かしてみると暖かい隠れ家に見える。シロジュウシホシテントウは成虫、幼虫とも菌類を食べているようだが、きちんと観察したことがない。中里の雑木林でも数が多いテントウムシだ。

ゴマダラチョウ幼虫、残る4頭のうち11/10にアップした2頭が、昨夜地上に降りたようだ。

『襟巻きトラップ』アブ幼虫(仮称「エリマキ」)の件。

問い1:まず幼虫たちは本当に襟巻きトラップ専門家なのか?という自問のもとに、その反証となるべき「エリマキ」幼虫を探してみた。つまりエノキワタアブラムシのコロニー内に鎮座してアブラムシを暴食している「エリマキ」がいるかどうかを探ってみた。
結果1:そのような幼虫は1匹も見つからなかった。
どうやら「エリマキ」は襟巻きトラップという生活戦略を常としていることは、ほぼ間違いないようだ。
それと11/11にアップしたもう1種のヒラタアブ幼虫(歩き回るので、仮に「ウオーカー」と呼ぼう)でも、襟巻き状態の姿勢をとることがわかった。しかし、「ウオーカー」の襟巻き姿勢は一時的なものであり、枝の太さも体長よりはるかに太い径でも見られる。「ウオーカー」が枝上で見つかる場合、襟巻き以外の姿勢でいることの方が多く、通常発見される場所はアブラムシコロニーの本拠地、葉の裏であることに変わりは無い。

問い2:襟巻きトラップに見られる隙間の問題。幼虫が巻き付く枝の太さを選んでいるかどうか?隙間が大きくなれば、餌捕獲効率が落ちるだろう。幼虫がこれを回避するために枝の径を自分の体長に見合ったものにしているのか否か。

結果2:幼虫自身が枝の太さを選択しているのかどうかは確認しようがないが10数例の幼虫を見た限り、枝の径と幼虫の体長差から生じる隙間が、体長を超えるほど大きい例はなかった。隙間の最長のものでも幼虫の体長の半分以下であり、隙間のせいで幼虫にとって餌捕獲効率がはなはだしく低くなるという状況は考えにくいようだ。

実はここ3日間、問い1、問い2を主軸に「エリマキ」を観察してきた。するとさらにいくつかの興味深い新しい知見、写真を得ることができた。結果2についても、もう少し詳しい観察例がある。しかし「エリマキ」の話題は重過ぎるので、その内容についてはこの『ある記』のコーナーではなく、別のあらたなるコーナーを設けそちらで扱う方がいいかもしれない。本ホームページは、まだ構成としては詰めが甘いことは承知していたのだが、年内オープンをめざしていささか見切り発車の感もあった。その点を反省しつつ、さらに改善していきたいと思う。とりあえず「エリマキ」についてのニュースは後日まとめてアップするかどうか検討中である。ただ、こうした私にとっても初体験の虫についても、リアルタイムで綴るのがスリリングで面白いと思う。少し考えさせていただくことに御了解を得たい。
新開 孝

キボシカミキリとキイロテントウ 2003/11/14
マンション裏の駐車場へ抜ける小道にはゴマダラチョウ幼虫たちのエノキと並んでヤマグワがある。今日はすでにヤマグワに産みつけられているクワコの卵を撮影することにした。午前中の陽の射し具合もちょうどいい。そう思って枝のあいだを覗き込めば、なんとキボシカミキリがいるではないか!(写真上)それも4頭いる。枝をかじったり、枯れ葉をかじったり、くつろいだりと動きは緩慢だがこれはどう見ても初秋か晩夏の光景である。しかし彼らはこの先越冬できるのであろうか?


エノキの葉裏には白い粉のような「うどんこ病菌」がおびただしい。地面に屈んで梢を仰ぐと、そうした葉裏にはキイロテントウがけっこう見つかる(写真中)。彼らの餌がうどんこ病菌などの菌類であるから、他の植物でも白い粉を探して歩けばこのキイロテントウに出会える。キイロテントウは成虫で越冬するのだが、そのときかなりの数の集団を作ることもあるようだ。そんな集団を一度は見てみたいと思う。


キイロテントウを撮影していると、同じエノキの葉裏にカタツムリがこれまたけっこう多い。葉をめくっているとそのうち1匹が動き始めた。(写真下)殻の直径はどれも5ミリ程度と小さい。これは幼体であろうか。






11/07にアップした『赤色黒星クモ』の種名は、やはり「シロスジショウジョウグモ」で正解だった。正確にはシロスジショウジョウグモの黒点型のオスである。私は最初『学研の図鑑 クモ』であたりをつけたのだが、昨日、G社の編集者「I.N」さんから偕成社のクモ図鑑のコピーをいただき確認がとれた。「I.T」さん、どうもありがとうございました。
『学研の図鑑 クモ』は生態写真も多く、けっこう楽しく眺めることができる。おおかたの普通種はこれだけでもわかる。しかし偕成社のクモ図鑑はさらにもっと実用的な図鑑である。写真全てが生体の写真であり、図版も大きいので助かる。2万円以上もするが、私も欲しいと思っている。この図鑑を作った方の労力を想像すれば、この価格は決して高くはない。


新開 孝

ビジョオニグモ 2003/11/15
中里の林でビジョオニグモのメスを見つけた(写真上)。見つけた場所はコカマキリが産卵に利用していた金網フェンスである。体長は1B近くあり、特に大きい腹部が目立つ。腹部背面にある模様は何かの顔に見えたり、不思議な雰囲気だ。「美女鬼蜘蛛」という名前の美女たる由縁は何であろうか?腹部の怪しい紋様(写真中)のせいであろうか?このクモは林の中でときどき見かける程度。あまり多いクモではないようだ、と今まで思っていたのだがそれは私の無知に過ぎなかった。
今日あらためて『学研の図鑑 クモ』を開いてみると、その理由が少しわかった。ビジョオニグモは円網と呼ばれる巣網を枝のあいだにかけるのだが、その円網上にはクモは滞在しない。円網の一部が接触する葉っぱに網巣を造りその中に潜んでいるそうだ。
そこに引き込んだ「よび糸」に脚をかけ、獲物がかかったときの振動を待っているわけだ。普段はひっそり隠れているのでは、ビジョオニグモの張る円網の特徴を知らない限り、偶然以外では滅多に見つかるはずがない。それにしても今日見つけたビジョオニグモのお腹は大きい!これから産卵だろうか。私は撮影するとさっさとその場を立ち去ったのだが、あとでしまったと後悔した。

昨日のキボシカミキリ、今日も3頭が同じヤマグワにいた。この
カミキリは寒さに強いのだろうか?寒さに鈍感なのか?

飼育中のヒラタアブ不明種、仮称『エリマキ』の幼虫が1匹、枝から離れてケース内の葉っぱに移動した。幼虫が襟巻きになっていた枝の部分には、タールのような黒い液状の排泄物が残されていた(写真下)。いよいよ蛹化するのであろうか?

新開 孝

キボシカミキリ、再び 2003/11/16
朝から暖かい。吹く風も生温いほどだ。こんな日はもしかして
という勘が働く。で、さっそくマンション裏のヤマグワを覗きに
行ってみた。キボシカミキリはどうしているだろうか?
やはり今日も3頭いる。うち1頭は枝を齧っていた。そしてもう2頭はというと、こちらはペアであった。しかも産卵している!
(写真上)。一ケ所で産み終えると、頭を下向きに方向転換して、メスは幹の表皮を齧って穴を掘る。しばらくすると今度は上向きに方向転換して、掘った穴へ産卵管を射し入れる。この作業をする間中ずっとオスは後ろでメスに付き添っている。(写真中)を見ていただければ、メス背後のオスの触角が、メスに比べてやたらと長いことがわかる。
このペアの産卵行動を眺めているうちに、ヤマグワの幹表面にはこうした産卵による痕跡が無数ついていることがわかった(写真下)。横長の齧りあとである。産卵痕には新しいのやらかなり古いと思われるものまで夥しい数あり驚いた。このヤマグワはせいぜい樹高1.2mの小木で、幹の太いところでも直径は8B程度。
今年の春、夏を振り返ってみれば、この木の梢でキボシカミキリはよく見かけたものだ。おまけにクワコの幼虫も今シーズン中3回くらいは発生していたようだ。現に晩秋に入ってからクワコの卵もかなりの数がこの木に産みつけられている。(クワコの卵は忘れないうちに明日、アップしよう)
ヤマグワにしてみれば実に迷惑千万な話しであろうが、この貧弱な木が何故か昆虫にとっての楽天地になっているようだ。その理由はもう少し時間をかけて探ってみたい、と思っている。
新開 孝

クワコの卵と『襟巻き幼虫』の件 2003/11/17
昨日書き込んだように、今日はクワコの卵を紹介しよう。
キボシカミキリの産卵していたヤマグワにはクワコの卵が多数付いているのだが、これもよく見ればすでに孵化済みの空き卵(写真上)と、産卵から差程時間の経過していないクリーム色した卵(写真中)の両方があることに気付く。クワコの成虫は今活動中のものや、まだこれからも羽化するものがいるはずであるから今後、真新しい卵は増えていくだろう。今の時点では古い抜け殻卵の方が数多く見つかる。丹念にヤマグワの幹や枝を見ていけば、卵を探すのは容易い。クワコは年に3回くらいは繁殖し、冬越しは卵でおこなう。夏場は枝以外に葉っぱの上にも産みつけられていることもよくあるが、さすがに冬には落葉することをクワコのメスは熟知しておるのか、ちゃんと枝や幹に産んでいる。もっとも晩秋の頃のヤマグワの葉は元気もなくみすぼらしいので、産む気になれないのかもしれないが。
クワコの成虫が活動すると言っても、彼らは花にも来なければ樹液にも来ない。もっぱら生殖行動に励むのみである。クワコのメスは梢などに静止したままおしりの先から袋状のフェロモン嚢を突出させ、性フェロモンを放出している姿を昼間でも見ることができる。しかし、こうした場面以外でクワコ成虫に出会う機会は少ないだろう。幼虫はけっこう見かけるのに成虫はさっぱりという理由は、やはり夜行性でありもっぱら繁殖という一筋の行動をとっているせいだと思う。

さて、実は今日も例の『エリマキ幼虫』を観察した。観察場所も柳瀬川下流の雑木林まで少しエリアを広げた(写真下)。言うまでもなく観察対象となる昆虫は数が多いほうがいい。ここ2、3日の目撃談からほんの一部を披露しておこう。まずこの幼虫がエノキワタアブラムシを専門食とするという一連の書き込みは、どうも私の思い込みかもしれないということ。もっとも実際に私が当初目撃した捕食場面の数例は、全てがエノキワタアブラムシであったし、幼虫が見つかるエノキにはいずれもこのアブラムシが繁殖していたのであるから、私の思い込みも当然の成りゆきであったと弁解しておこう。昨日もちょこちょこ歩いていたエノキワタアブラムシが、私の目の前で捕食されるのを見てしまいその思い込みはもう変更不可能なほど私の脳裏にいよいよ深く刻み込まれてしまった。ところがである!その観察のほんの数分後、シロジュウシホシテントウを空中に喰わえ上げている幼虫がすぐそばにいるではないか!そのテントウムシがエノキの葉上に弱々しく止まっているのを事前に見ていたのではあるが、まさか『エリマキ幼虫』の餌食になるとは露とも想像できなかった。しかしこの事実を目の当たりにしたからといって、私の思い込みが一気に氷解したわけではない。そういう例外もたまにはあるのだろう。極めて珍しい場面に遭遇したのかもしれない。昨日のテントウムシ捕食事件についてはそう考えていたのである。
そして本日の午後2時。私は思わず悲鳴に近い声を張り上げながら、急いでカメラをスタンバイした。幸い散歩する人が近くに居なくて良かった。絶叫を抑えたそして笑いも含めた独り事を漏らす中年男はどう見ても、気狂いであったろう。私が驚嘆している物件は、通常の視界で歩く人には全く見えない世界である。まあ、見えたとしてもただのゴミにしか映らないかもしれない。が、しかし私はすでに体裁などにこだわってる場面ではなかった。写さねばならぬ!なんとしても、この瞬間を!!
私の思い込みはここで一気に崩壊し、まさに脳内ディスクが初期化されたのであった。

前にもお話ししたように、こと『エリマキ幼虫』に関しては『ある記』には納まり切らない情報量があり、この1件だけで『ある記』が独占されてしまう。今日も思わず進捗状況に触れてしまったが、やはりこれは別コーナーを新設することにする。今そのネーミングも考慮中にてしばらくお待ち願いたい。
また写真では表現できない行動は動画も記録していくので、
動画クリップもお見せできると思う。乞う御期待!
新開 孝

下新井の林とハラビロカマキリのメス 2003/11/18
所沢市下新井の雑木林に初めて訪れたのは15年前になる。当時はまだ不法投棄もほとんどなく、広大な平地林は平穏な濃い自然にあふれていた。四国に産まれ育った私が憧れていた、ゆるやかなスロープとそこにどこまでも続く落葉樹林という風景があったのである。広い空には電線も無く、テレビドラマのロケもしばしば行われていたりした。私はこの林に毎日のように通い続け、私にとっての大事なフィールドになっていった。畑で働く農家の方とも親しくなった。それから数年してここもどんどん様子が変ってしまった。てっとりばやく言えば荒廃した。とどめはつい最近の広大な清掃工場と林を大きく分断する自動車道の建設であった。そのような今では全国どこにでもある里山の自然衰退に伴いここ数年この林を訪れる回数はほんとうに数えるほどとなった。
今日はしかし久しぶりに出向いてみた。前回来たのはは7月末の雑誌の取材を受けた時だから、今年に入ってわずか2回目ということになる。今日の目的は私がお気に入りだったクリ林で、ちょうど今頃が羽化時期のウスタビガを探すことである。繭にぶらさがったウスタビガを撮影しようというわけであるが、これがいかに困難か、私はよく知っている。以前に『ウスタビガ撮影記』という記事をある雑誌でも書いたのだが、この晩秋に現われる蛾の魅力に私は一時期のめり込んだのである。困難以上の苦難をさえ味わった私はそれでも3年以上の年月をかけて撮影し、あるシーンの撮影をくぎりとしてウスタビガから遠ざかったのであった。
そんな昔のことを思い出したりしながら、林をゆっくり巡ったもののやはりウスタビガは見つからなかった。生け垣のチャ(お茶)の花にはオオスズメバチやコガタスズメバチの女王が吸蜜に来て体中が黄色い花粉にまみれている。さすがにオオカマキリもよれよれという風体で、最後の産卵に漕ぎ着けるだろうか?
林の南側のクヌギの木ではハラビロカマキリのメスが日向ぼっこか、じっとしている。すでにこのカマキリの卵のうもあちこちで見かけるから、もうこのメスの寿命も先は長くないのだろう。農家のおばさんに挨拶してからカメラを構える(写真上)。
クリ林の中では、ツルウメモドキの朱色の実が、ウスタビガ探索に疲れた私の目の前にあった(写真下)。さあ、午後からは中里の林に移動だ。
新開 孝

クワエダシャク幼虫とクワコ 2003/11/19
11/17にヤマグワの木に産み付けられたクワコの卵を紹介した。そしてクワコ成虫にはあまりお目にかかれないとも書いた。ところが今日午後2時、羽化したばかりのクワコ成虫に出会ってしまった。(写真上)この場所はキボシカミキリの産卵を撮影したヤマグワの木の並びである。触角が櫛状になっておりオスだとわかる。ムクノキの葉を綴った繭から出て来てそのまま止まっている。ぴかぴかの翅が綺麗だ。よく見るとクワコのうしろ翅の縁が目玉模様になっていることに初めて気付いた。このようにお尻を上向きに反り返したポーズをとっていると、目玉模様が余計に目立つから面白い。今夜にはメスを探し求めて夜空に飛び立つのであろう。夜間ヤマグワを見て回れば交尾しているカップルや、産卵中のメスに出会うのもそう難しくないのかもしれない。
ちなみにキボシカミキリは産卵を撮影してからも毎日オスを見かける。それもつい間近に羽化した新成虫のようだ。ヤマグワを利用するクワコとキボシカミキリが、同じ時期に成虫発生して産卵しているというのも興味深い。
ヤマグワの木につくもう一種の蛾がクワエダシャク。この幼虫も今朝見つけた(写真中)。クワエダシャクはこのまま幼虫で冬を越す。枝に擬態した姿は見事としか言い様がなく、少し目を離すと見失ってしまいそうだ。(写真下)は幼虫を背中側から見たところ。

『ベランダのコアシナガバチ』
10/13にベランダ外壁の植え込みで見つけたコアシナガバチの巣。朝起きるとまずはこの巣を見るのがずっと日課となっていたのだが
今日、午後1時。私の目の前で最後の二匹が巣から飛び去っていった。最後の二匹になったのは数日前だ。こうして少しづつ巣から飛び去っていったハチは新女王なのだが、さて何処でどうやって冬を越すのであろうか。ハチに詳しい同業者の藤丸篤夫さんに先日、話しを聞いてみた。するとさすが藤丸さん!何回か越冬中のアシナガバチを見たことがあるそうだ。いずれも竹筒の中だったという。
さすればこの冬は、竹筒を懸命に見て歩くという楽しみも出来た。
が、これはけっこう厄介な探索でもある。内視鏡レンズを備えたカメラでもないと観察も撮影もできそうにない。

『エリマキ幼虫、歩く!』
仮称、エリマキアブについては新たなコーナーを設けるとは言っても、種名の確定と生活史の全貌を私がまとめることができるのは今後順調にいっても来年の今頃であろうと思う。それまでこの虫について全く触れずに『ある記』を進めるというわけにもいかないだろう。ちょびっとずつだが、書き込ませていただくことにしよう。
さて、かの幼虫は襟巻き状態で微動だにせず、まさにアリジゴクのごとく「待ち伏せ」戦略を常としているのはもう間違いない事実である。何日も同じ枝の、同じ部位に同じ幼虫を見ることができるのだ。しかも私が抜き打ち的に訪れているにも関わらず、捕食シーンに出会うことは珍しくない。一見この待ち伏せ戦略の成果には疑問を持ちたくもなるのだが、あにはからんや、エリマキ幼虫たちのいわゆる「注文の多い料理店」は意外にも繁盛しているのである。もっともエリマキ幼虫の場合、産卵という時点において、母親成虫アブの配慮があると私はにらんでいるのだが。
さて一昨日、私は一匹のエリマキ幼虫が店閉まいして歩み出す瞬間についに立ち会うことができた!タール状の黒色液体を残し近くに移動していた幼虫が、再び動き出したその瞬間でもあった。その歩み方が、実にユニークなのであるが、、、、、!?。しかしこれこそはやはり動画で紹介すべきものだと思う。しばしそれには時間も必要であり、またもや乞う御期待となってしまう。御容赦願いたい。だがしかし、先日触れた驚愕の捕食シーンについては今日、触れておこう。これについてはいろいろ推察なさった方もおられるようだ。幼虫どうしの共食いではないか?とか。それは確かに飼育の当初ですでに観察されている。狭いケース内に2頭押し込まれて、共食いが発生したのであった。しかし、私が是非とも御報告したいのはそれではない。
今になって考えればそういうことがあってもおかしくはない、そう言ってしまうのは簡単なのだ。確かにこの『ある記』でもこれまでエノキの葉からいつゴマダラチョウ幼虫が落ち葉へ移動するのかと、連日注目してきた私ではないか。そうエノキである!エノキワタアブラムシを捕食するエリマキ幼虫が棲んでおるのは、エノキなのだ!だとすれば今のこの時期、エノキの枝を移動するゴマダラチョウ幼虫が「注文の多い料理店」のメニュー項目に入っていたとしたら!?おお!振り返ってみればそうなのであるが、でもそんなあ!?であった。確かにすでにシロジュウシホシテントウを捕食しているエリマキ幼虫を見ている私であるから、そういうシナリオも検討して良かったはずなのだが、前にも書いたようにその一件だけでもって自分の思い込みを解消できなかったのである。一昨日の半狂乱に近くなった私が見た捕食シーンとは、そうゴマダラチョウ幼虫がエリマキ幼虫に吸血されている、その現場であったのだ!!
ゴマダラチョウ幼虫は体のちょうどまん中あたりの横腹をエリマキ幼虫の口に捕らえられて宙ぶらりん状態になっていた。エリマキに対してゴマダラの体長は1.5倍はあろう。体重差はいかほどであろうか。とにかく物凄い獲物だ!11/17、午後2時の発見当初、ゴマダラチョウ幼虫はまだ捕獲された直後と見え、生前の姿をとどめていた。それがさすがにこの大きな餌から吸血するには多大な時間を必要とするのであろう。本日、最後の観察をした午後3時に至ってもなお、吸血状態のままなのである。丸2日間以上のお食事である。さすがにゴマダラ幼虫の体もくの字に折れ曲がり、萎れてきてはいる。明日もまたこの壮絶な捕食現場を訪れるつもりだ。
新開 孝

肥大化!した、エリマキアブ幼虫 2003/11/20
夕べからの雨で中里の林もしっとりと濡れている。さすがに人影も少ない。雨脚が弱まった午前8時半ころ、さっそく問題のエノキを見に行った。するとどうだろう!ゴマダラチョウ幼虫はエリマキアブ幼虫の口にまだぶら下がっている!ついに吸血は4日目に入ったのである(写真上)。
エリマキアブ幼虫の体はもともと偏平型(枝に巻き付くにはちょうどいい体型)なのにすっかり円筒型にまで肥大している。満腹度300%!!そう思いたくもなる。下段2枚の写真は通常時の幼虫を、上から順に背中側と腹側(体底面)から撮影したものである。肥大化したことにより体側面についている突起状のひだが、吸血幼虫では体の曲面に消えてしまっている。ゴマダラチョウ幼虫はといえば、すっかり体液を吸い取られて体は萎びており、頭殻のみが生前の形を留めている。
エリマキアブ幼虫がこうした大型の獲物を捕らえ、時間をかけてじっくり吸血したことは、もはや単なる偶発事件とは言えないであろう。それと私がこの現場を4日間に渡って見ていて気になったことは、捕食者と獲物双方があまりにも無防備に目立ち過ぎるということだ。だからこそ私の目にも焼き付くように飛び込んできたのであるが、これは特に鳥などのさらに上位の捕食者にねらわれ易いのではないかという懸念を抱かせる。
その点が少し心配にもなっていたのだが、本日、午後2時半、再度見に出掛けた時点で、すでにゴマダラチョウ幼虫の姿は消えていた。発見時刻からなんと72時間弱!もの吸血劇が終了したのである。エリマキアブ幼虫は太い円筒型のまま枝に巻き付き落ち着いていた。

エリマキアブ幼虫の食性とは、いったい如何なるものなのか?
増々、不思議な様相を呈してきたのであるが、ここで手元の文献を参照してみよう。平凡社の『日本動物大百科、第9巻、昆虫2』(1997)。この本のp132、「ハナアブ類」を開いてみると、朧げにも真相に近いものが見えてくる。本文ではハナアブ類の幼虫は形態、生活場所、食性などきわめて多様であることが紹介されており、特に「ヨツボシヒラタアブはチョウやガの幼虫を専門に捕食することが知られており、フタスジヒラタアブもかなり大型のチョウやガの幼虫を捕食することがある。」という記述が目をひく。まだ何も確証はないが、エリマキアブの正体究明はそう遠くはないかもしれない。ここしばらく幼虫たちが枝に巻き付いているかぎり、私は目が離せないのである。
新開 孝

ハマヒサカキの花と虫たち 2003/11/21
秋晴れである。中里の林を一巡してから空掘川の遊歩道に出てみた
(写真上)。遊歩道には様々な植物が植えられているが、しばらく歩くとプ−ンと臭う。あまり心地いい臭いではない。それと同時にブン、ブンという翅音がにぎやかに聞こえてくる。振り向いてみると臭いはハマヒサカキの白い花から漂ってきていた。ハマヒサカキの花はたくさん群れて咲いており、そこに多数の虫たちが来ている。
虫の中でも最も数が多いのが、ニホンミツバチだ(写真中)。
ニホンミツバチのうしろ脚には白い花粉団子を付けたものもいる。ハチの動きが早いので撮影する私もそれに合わせて中腰になったり伸び上がったり、忙しく立ち回るうちに汗ばんできた。ニホンミツバチの次にはハナアブやハエ、ヒラタアブの仲間が多く、彼らも花にすがりつくようにして蜜や花粉を舐めとっている。動きの早いハチの撮影では、ここぞというカットが撮れたらしばし画像チェックをする。私の使っているデジタルカメラEOS1-Dは画像の拡大表示機能がないので、微妙なピントの確認はできず、どうしてもカット数が増えてしまう。これでは銀塩カメラとほとんど変らない。まあ、しかしこうしたシャッターチャンスの難しい撮影では、画像チェックに時間をかけるより少しでも多くシャッターを切ったほうがいいかもしれないが。恐ろしく高価なカメラにしては実におそまつな話しである。そうこうしているうちに、ハマヒサカキの植え込みではカマキリ3種がいることに気付いた。狭い範囲にコカマキリ2頭、ハラビロカマキリ1頭、そして(写真下)ハナアブを喰っていたオオカマキリ1頭である。どのカマキリも皆メスであり、花にやって来る虫がお目当てのようだ。

『飽食したエリマキアブ幼虫の今日』

あのゴマダラチョウ幼虫を4日間に渡って吸血していたエリマキ幼虫、今日はどう過ごしているだろう。やはり気になって今日も一番に覗いてみた。すると数Bばかり静止位置が動いている。もう余程満腹だから餌など当分いらんだろう、そう思っていたのだが、驚いたことにエノキワタアブラムシをくわえている!あなたの胃腸は大丈夫ですか!?私は少々あきれてしまった。しかし、待ち伏せという戦略をとるこの虫にとって、獲物が来たらとにかくいただく、そういうプログラムが強く働いているのかもしれない。別の幼虫で観察できたことだが、一匹のエノキワタアブラムシを食べていたところへ次々と2匹のアブラムシが通りかかると、それらもまとめてくわえ込んだこともあったのである。「エイリアン」を凌ぐなんだか凄い生きものである。
新開 孝

ホタルガ幼虫とオオスカシバ幼虫 2003/11/22
再び空掘川遊歩道の植え込みを見てみる。昨日のハマヒサカキには
(写真上)のような虫喰い跡が点々とついている。葉の表面の薄膜だけを残し、葉肉を裏側から削り取るようにして喰われている。この丸い窓穴のついた葉を裏返しながら丹念に見ていくと、(写真中)のような直方体の芋虫がけっこう見つかる。写真の芋虫の体長は3@。大きいものでも5@弱程度である。喰い跡の犯人はこの芋虫たちで、ホタルガの幼虫だ。まだ孵化したばかりか、2令幼虫であるものがほとんど。ホタルガの成虫は6月と9月ころにあちこちで見かける。空掘川遊歩道ではハマヒサカキの他にヒサカキも植えられていて、幼虫はそこでもときに大発生している。幼虫は大きく育つと葉っぱのへりからむしゃむしゃ暴食するので、その結果植え込みが丸坊主になることもある。今見つかるホタルガの幼虫は若いまま冬を越す。
クチナシの木も場所によっては多い。今日は少し上流に遡りそのクチナシを覗いてみた。するとクチナシの実がまだ痩せてはいるが朱色に染まっていた。もういないだろうと思っていたら、お尻に角があるオオスカシバの終令幼虫が元気に葉を齧っていた(写真下)。この幼虫はこれから土のなかに潜り込み、蛹で越冬する。成虫の発生パターンはホタルガと似通っていて年2回程度である。
子供を連れての散歩がてらにこうして遊歩道の植え込みを見ていくだけでも、いろいろな虫や、虫の残した痕跡が見つかって面白い。アラカシの生け垣では赤い冬芽のところを覗くと、ムラサキシジミの白い卵がこれまた多い。もちろん全て孵化済みの卵殻である。どれも幼虫が喰いあけた大きな穴がポッカリ開いている。

『エリマキアブ幼虫、今日のメニュウー』

エノキワタアブラムシを喰っている現場はほぼ毎日見られる。このアブラムシが常食メニュウーであることは疑いないところであろう。さて、今朝はどんなメニュウーが飛び出すか!?さすがにもう大袈裟な驚愕は伴わないが、今朝はナミテントウ幼虫に喰らい付いているところを見つけた。ナミテントウは成虫、幼虫ともにアブラムシ喰いだから、こうしてエノキでエリマキアブ幼虫に遭遇することも多いはずで、これは多少とも予測していた出来事である。
新開 孝

コナラの幹に止まる虫 2003/11/23
中里の雑木林に出向く前に、エノキの葉上にまだ残っている最後の
ゴマダラチョウ幼虫を覗いてみた。すると暖かい日射しに体を反らすようにして日光浴している姿があった。この一匹が地上に降りれば、今秋のゴマダラ観察も終了だ。彼らの行く手にはしかし、私たちの想像も及ばぬ天敵、事故などが待ち受けていることも忘れてはならないだろう。無事、落ち葉へと降りました、めでたし、めでたしで観察記を閉じたのでは都合のいい物語りになってしまう。
さて、昨日は中里の雑木林の下草刈りが行われ、林は一段と明るくなった。2日前に見つけて撮影したマンネンタケは柄の中段あたりから上部はすっ飛んでいたが、まあ仕方が無い。草刈りという林の管理は重要だ。ここは清瀬市が民間団体などの意見も取り入れながら管理作業を業者に委託して施行している。雑木林は手入れを怠るとたちまち荒れる。一旦荒れだしたら昆虫観察どころではない。
今日は「ヘラクヌギカメムシ」の「ヘラ」という名前の由来をお話するため、このカメムシのオスを探すつもりでコナラやクヌギの幹を見て回った。残念ながら「クヌギカメムシ」のオスしか見つからなかったが、カゲロウの一種のオスに出会った(写真上)。ちょうど逆光のなかで見つけた個体は、体長が1B程度。尾毛という細い尻尾は体長の数倍の長さがある。腹部の大半は透けている。水以外の餌をとることなくメスと交尾して短い成虫期を終えるようだ。カゲロウはいわゆる「川虫」であるが、林のすぐ横を流れる空掘川で生まれ育ったのであろう。順光であらためて見ると翅が微妙に虹色に輝いて綺麗だ(写真中)。そのうち空掘川にも降りて「川虫」を見てみようと考えている。
カメムシ探索のおこぼれとして、キノカワガも目に飛び込んで来た。(写真下:画面中央右寄り))この見事な擬態にはさすがの私も一度は見落としそうになった。あれ!?という勘が働き、目線を今一度戻したところにこの蛾がぺたりと静止していた。コナラの幹の凹凸とキノカワガの紋様、体の隆起具合など、微妙な立体感を写真に捉えるためにストロボはあえて使わない。キノカワガの翅や体の紋様は非常にバラエティーに富んでおり、静止している樹肌にうまく溶け込んでいる。いろんな場所でキノカワガだけを一冬かけて撮り集めても面白いだろうなあ、そんなことを思っているうちにカメムシのことなどすっかり忘れてうちに戻ってしまった。
新開 孝

果実を食べるシャクトリムシ 2003/11/24
午前9時、中里の林。イヌシデの幹にツノカメムシ類のオスがすがりついていた。遠目でもよく目立つ。もう瀕死状態なのかぴくりとも動かない。体の右半分がひどく損傷を受けている。正確に名前を調べるため手にとってみたら脚を動かした。よく見るとツノカメムシの仲間のなかでも稀な種類の「フトハサミツノカメムシ」だ(写真上)。このあたりで見かけるのは今日で2回目。このカメムシの体は夏の間は緑色だが、秋になると写真のように茶色へと色変りする。傷の様子を仔細に見てみるが鳥に襲われたものかどうかは判らない。何かに細かく喰いちぎられたような傷口が痛々しい。冬越しは落ち葉の下や樹皮の隙間などに潜り込むのだが、この時期はまだその場所を求めてか移動している最中なのだろう。今日のように気温も低い日は動きも鈍いので、鳥にでもねらわれたらひとたまりもない。
このところようやく林全体が色付き始めた。しかし、木によって紅葉や落葉のタイミングはかなりばらつきが大きい。エノキもまだ緑の葉をつけているものから、黄色く見事な紅葉をしているもの、すでにほとんど落葉しかけているものなど、様々だ。そのエノキの梢ではつい数日前からシャクガの一種の幼虫をときおり見かけていた。とくに落葉した枝にしがみついていると完全に溶け込んで、うっかりすると見落としてしまう。体長は1B程度で若い幼虫ばかりだ。ところが今朝はこのシャクガ幼虫が食事をしているところに出会した(写真中)。なんと枝に引っ掛かっているエノキの果実を齧っていた!『はらぺこ あおむし』のシャクトリムシ・バージョンを見ているようだ。エノキの果実は人が食べても甘くておいしく、弥生時代には食糧として重宝されてもいたらしい。

さて、この『ある記』のバックナンバー「10/23」で、センチコガネの死骸について書き込んだ。まだ読んでいない方はボタン「次ぎ」を押して1ヶ月前まで戻ってもらいたい。(なお、近いうちに目次を作製するのでそれまで煩わしい操作に御辛抱願いたい。)あのセンチコガネの死骸が連続して見つかった場所は、イチョウの植栽林のなかに続く20m程の小道である。この場所ではセンチコガネの他にもいろいろな昆虫の死骸がその後も落ちているのが見つかり、連続死体遺棄事件の犯人探しはずっと続行されている。今だ犯人確定に迫る捜査進展はないのだが、センチコガネが連続して(同所でさらに3体目も発見された!)遺棄されていた理由がほぼ判明した。まずは証拠物件の写真である(写真下)。地面に空いた穴ぼこは直径1Bほど。穴掘りの際にかき出された土は人に踏み固められてはいるが、何者かがつい最近掘ったことがわかる。このような穴がこのイチョウ林の小道では何個も見つかるのである。中里の林を巡る遊歩道の一部であるこの小道にこのような穴が集中して見つかることに私が気付いたのはだいぶ前の11月初め頃であった。
この穴を掘った何者かとはもうお判りであろう、センチコガネである。この穴はセンチコガネが犬の糞を運び込んだトンネル口なのである。まだ運び切れない糞がトンネル口の近くに残されていることもあったが、多くの穴ではセンチコガネの迅速な作業のせいか糞を運んだときにできた擦り跡と散乱する犬の体毛が残されているばかりで、路上はすっかり清められているのだ。毎日この小道を通過する犬の散歩人口は相当な数に上るわけだが、糞の後始末についてはほとんどの方がきちんと回収して帰るにもかかわらず、いるのである不心得ものが。その不心得者はセンチコガネ様に足向けて寝れないであろうが!そう!小声で言いたい。
つまり「イチョウ小道」で犬に糞をさせて後始末を怠る飼い主が複数なのか、特定の人間なのかはわからぬが、常習犯として明らかに存在しており、そこへ臭覚に極めて優れたセンチコガネが次々と飛来する。その繰り返しの日々のなかで、何者か(多分、鳥だろう)が目敏くセンチコガネを襲っていたのではないか?そういう解釈にいきつくのである。

注)『はらぺこ あおむし』は偕成社発行の絵本。作者はエリック・カール。絵本としてはベストセラーに入る。どんな小さな書店にでも置いている。
新開 孝

雨の林と推理 2003/11/25
雨脚は正午前から激しさを増してきた。風も出て来て林の中を歩くのはさすがに私一人だ。空掘川は濁流でゴーゴー唸っている。コサギが堰のところで魚をねらっている。しばらく眺めているとハクセキレイが何かの昆虫をフライキャッチした。こんな日でも川虫が飛んでいるようだ。
昨日書いたセンチコガネのトンネル穴が集中して見られるイチョウ小道まで回ってみた(写真上)。露出した土はしっかり踏み固められているが、そこかしこに櫛で引っ掻いたような犬の爪跡が見られる。まさか犬がセンチコガネにちょっかい出すことあるだろうか?と思う。その可能性も否定できない。地面を這うセンチコガネを犬が弄ぶというシーンがあるかもしれない。もしかしたら犬を連れた人の靴底が凶器であったかもしれない。しかしでは他の様々な昆虫たちの死骸はどう説明できるだろうか?連続死体遺棄事件の犯人が複数いる可能性も充分ありそうである。
林から戻ってマンション裏手を覗いてみると、キボシカミキリは1頭のオスだけが雨に濡れてヤマグワの幹にしがみついていた。その様子を撮影してアップしようと考えていたのだが、部屋に戻って気が変った。昨日持ち帰ったフトハサミツノカメムシがケース内でカリカリと音を立てていたのである。かなりの重症であったから今朝あたり昇天したかと思っていたのだが。それでカメムシの怪我の仔細をもう一度しっかり見ておくことにした。今思えばセンチコガネの死骸もこうして詳しく調べておけば良かったと悔やまれる。
フトハサミツノカメムシ、オスの右胸部うしろから腹部先端に至るまでの大きな損傷は、背面から見たときに比較的直線状に欠けていることがわかった。体が欠損するときに右後ろ脚も付け根近くから一緒にもぎとられている。ルーペでじっくり見ているうちに胸部背面についている欠損、(写真中)でいうと怪我の右端部分は背面方向から衝撃が加わっており、いっぽう腹部にかけての大半部分は体の腹側(底側)(写真下)から力が加わっているように思える。つまりカメムシの体には上下2方向から何らかの衝撃が襲ったのではないか?そうなるとやはり鳥の嘴に襲われたという可能性も浮上してくる。欠損した怪我は1.1Bの長さがある。はて鳥だとすれば何であろうか?直線的に欠損しているということは一撃で穿たれたことを物語るのではないか?しかしこの先の推理を進めるにはあまりにも情報が不足している。
鳥の嘴が昆虫にどのような傷を及ぼすのかなどと真剣に考えたのはセンチコガネの死骸に疑問を抱いてからだが、この先ますます死骸探しに嵌まってしまいそうである。
新開 孝

はやにえ1号、発見 2003/11/26
柳瀬川の清瀬市金山緑地公園は、JR武蔵野線と関越高速道の交叉する地点から南西に約2Hにある。私のうちから自転車で20分ほどの距離だ。例のエリマキアブ幼虫たちだが、もっとも近場の中里の林ではこのところ次々と姿を消していくので、今日の観察場所として金山緑地公園まで出向いた。エノキの梢を探していくと幼虫は見つかるがここでも数は少ない。こうなってくると動画撮影は急いだ方がいいようだ。大半の幼虫たちがエノキから地上へと移動し始めている。エノキを探っていると今秋初の「はやにえ」が見つかった(写真上)。大きなムカデの一種だ。少し離れた場所ではセグロセキレイにまっしぐらに突っかかっていくモズを見た。遠くて雌雄の判別ができないが、まさに小さな猛禽だ。こやつがはやにえを立てた犯人かもしれない。

水辺の流れのあるところでは、シマアメンボが群れている。水底に映るシルエットは、まるでけものの足跡だ(写真中)。イタチのそれより少し大きいかもしれない。なんとか4つ足を写し込もうとがんばったが、そう思い通りにもいかない。

コナラの葉で見つけたセアカツノカメムシのメス(写真下)。この方は大丈夫のようだなと思いきや、右前脚と中脚が無い。撮影したら手にとってしっかり調べてみようと思っていると、いきなりブ−ンと飛び去った。部屋に戻ってからパソコン上で撮影した写真画像を拡大してみると、なんと!まあ、この方も実はたいへんな災難に遭遇していたことが判明!!脚が2本ももげていたのだから当然ではあるが私が出会うカメムシはどうしてこう怪我虫ばかりなのだろうか?この写真ではわかりにくいが、頭のすぐうしろ、前胸背面中央部に黒いV字型が見える。人で言うとうなじ辺り。これはうんと拡大するとV字型の亀裂であったのだ!黒く見えるのは体液が固まったもの、つまり血痕のようなものだ。これはカメムシが頭の方から鳥の嘴でがぶりとくわえられた、そう推測できないだろうか!?そのショックで脚がもげたのではないか?なんとか辛うじて受難から逃げきったのであろう。
秋はカメムシ類が大きく移動する時期でもある。普段は見かけない山地性のカメムシに近場で出会すのもそのせいであろう。そして色鮮やかなカメムシたちは、臭いの反撃を発揮する前に鳥や様々な天敵に襲われていることを実感できる。モズなどはカメムシの臭いなど平気のようでもあるし。


新開 孝

繭に占拠された、イラガの繭 2003/11/27
昨日「はやにえ」1号を見つけたエノキの梢ではイラガの繭も2つ見つかっていた。そのうち1つは部屋に持ち帰ったのだが、イラガの繭を上から見ると(写真上)、矢印で指し示したところに黒い小さな穴があることがわかる。穴の周辺には白っぽい綿くずのようなものまで付いている。私が繭を持ち帰ったわけはこの黒い穴を見つけたからだ。この穴は寄生蜂のイラガセイボウが産卵した痕なのである。そこで今日はさっそくこの繭内部を覗いてみることにした。
繭の外壁はとても固い。まずはアクリルカッターでカリカリと引っ掻くようにして穴枠の溝を掘っていく。ある程度溝ができたら今度はカッターナイフで慎重に繭壁を切断する。そうやって覗き穴ができたところで顔を見せたのがイラガセイボウの幼虫であった(写真下)。この幼虫を傷つけないよう細心の注意を払って穴を穿つ必要があったのである。
糸でできた網状のものはハチの幼虫がこしらえた繭である。それは非常に薄いものだが、強度的にはイラガの繭が固いのでまったく問題ないというわけだ。もちろん外側の繭を作ったイラガの幼虫は、ハチの子に食べられてしまったのである。ハチの幼虫はこのまま繭内で冬を越し、来年の初夏の頃蛹となり羽化する。羽化したあとは繭の壁を内側から時間をかけて喰い破って穴を穿ち出てくるのだ。繭は一見頑丈で安全なシェルターのように思われがちだが、意外にもそうではない。冬の間に鳥の嘴で割り砕かれ、中身がからっぽになった繭もけっこう見つかるからだ。昆虫にとって鳥は恐るべき存在である。今回、持ち帰った繭は中の幼虫を撮影したあと粘土で蓋をしておいた。おそらく来年にはハチの蛹の写真をお見せできることだろう。それにしてもこの固い繭に穴を穿つイラガセイボウのメスの産卵管の仕組みは一度じっくり見ておきたいものだ。

『エリマキアブ幼虫の恐るべき柔軟動作!』

昨日にも書いたようにエリマキアブ幼虫の数が減っていることもあり、先送りしていたビデオ撮影を急ぐ必要ができて今日はほぼこの作業に集中した。ただし幼虫消失の要因として「大半の幼虫たちが地上へ移動」していると、100%思っているわけではないことを補足しておこう。おそらくは天敵による捕食もけっこうあるのではないかと考えているのだが、その根拠となる証拠現場の一つはすでにおさえてある。ちょうど10日前のことだが、エノキの幹でエリマキアブ幼虫がハエトリグモの一種に捕らえられているのを目撃したのだ!そういえばクモたちは自分の体よりうんとでかい獲物をよく捕まえており、そのハンターぶりたるや凄いものがある。エノキの梢を眺めているとよくハエトリグモ類の目線にぶつかるのであるが、かれらはしかと顔を上げ私を睨んでいく。クモという天敵の存在も侮ってはいけない。それとシジュウカラやエナガが群れをなして梢の細い枝先までしきりと丹念に餌探ししているのを眺めていると、これも脅威に違いないであろうと思われる。
で、今日ビデオ撮影したシーンはエノキワタアブラムシを幼虫が捕食する場面であった。なんともこれは凄い!撮った私の腕前のことではなく、そう幼虫の恐るべき動きが!!もうこれは百聞は一見に如かず!残念ながら動画のアップはもう少し先になるので、しばしお待ち願いたい。
新開 孝

ニホンヤモリに会う 2003/11/28
薄曇りで今日は寒い。風も冷たい。しかし中里の雑木林ではきっといろんな虫が待っているに違いない。マンション裏のヤマグワには今朝も2頭のキボシカミキリがしがみついていることを確認してから林に赴く。昨日は書き漏らしてしまったが、ずっと観察していたゴマダラチョウ幼虫最後の1頭が一昨日の夜、姿を消した。おそらく地上に降りたのであろう。エノキの葉には残された台座の糸が白く光っているだけであった。来年の春、エノキに幼虫たちが再び戻って来る姿が楽しみでもある。
林ではさっそく「セスジツユムシ」のメスが次々と4頭見つかった。さすがにオスの姿も鳴き声もここのところ皆無だ。最後にオスを見たのは10日以上前だったと思う。メスも触角が切れたり(写真上)脚がどれかもげていたりして彼らの活動期も終焉に近いようだ。

5日前ヘラクヌギカメムシのオスを探したところ、そのとき見つかったのはクヌギカメムシのオスばかり(3頭)であった。今朝はしかし、「ヘラクヌギカメムシ」のメスが3頭、コナラの幹で産卵している(写真中)。「ヘラクヌギ」と「クヌギ」を識別するポイントは腹部気門の色を見るのが確実であるが、カメムシを背面から見た時、両種には体色と斑紋の違いがあるような気が段々してきた。その差異とはなんとなく感じるという微妙なもので、おそらく多数の個体を見ていくなかで会得できるものだと思う。それにしてもこのクヌギカメムシ2種の間に生態上の差異というものがあるのか?「種」とはなんぞや?である。

以前(10/26)雑木林と遊歩道を区切る金網で産卵するコカマキリを紹介したが、今日はその金網のひさしで「ニホンヤモリ」を見つけた。ヤモリを中里の林で見るのは初めてだ。私が小学生のころだから30数年も前の話しだが、四国、松山の町中にはヤモリがいくらでもいたものだ。夜歩けばあちこちの家の外壁にヤモリがへばりついていた。もっとも西日本では関東などに比べてニホンヤモリの個体数は多い。けれど松山の町中も今ではすっかりビルだらけだ。餌の昆虫類も確実に減っているであろうから、ヤモリたちの繁殖も難しくなってきているのではないか。夜行性のニホンヤモリのことだ。私は彼らのことをこの中里の林では最初から意識していなかっただけかもしれない。夜の観察はこれから冬に入っても断然面白い。これを機会に夜間撮影の態勢を整えようと思う。

新開 孝

「昆虫観察トラップ」万里の長城のごとし! 2003/11/29
昨日ニホンヤモリを見つけたことから、さっそく平凡社の『日本動物大百科・第5巻』を開いてみた。日頃から馴染みの薄い生き物に出会すとわくわくしてくる。ヤモリという身近な爬虫類のことは文字上では知っていても、こと生態、暮らしぶりとなると私は全く無知であることを再認識した。こういうとき座右の書として『日本動物大百科』全11巻はたいへん重宝する。で、この書物から得たニホンヤモリの情報のなかでもっとも注目した点は、彼らが主に人の居住区にしか棲息できない、というくだりである。特に冬眠場所についてはヘビやカナヘビなどのように土中に潜り込めない、ヤモリ固有の事情があるという。つまり家の外壁やガラス窓にぴたりとへばりつく吸盤状の脚の構造にとって、土の粒子がそこに詰まることははなはだヤモリにとって不都合だというわけである。土を掘るにも適した形状ではない。なるほど!そう言われてみれば頷けるのだがヤモリの立場になって考えてみない限り見えてはこない事情だ。
それと冬の気温の問題。ヤモリは民家の暖房、人いきれなどを頼って冬を乗り切るというのである。ニホンヤモリの生息分布の現状は、人の生活圏とともに成立し本来の自然分布は九州西海岸の一部だけではないかということらしい。さすれば中里の林というのはどういう点で人の居住区との接点があるのだろうか?
ところでニホンヤモリの産卵の仕方、この情報も本書から得た。その記事を読んだ途端、私は前々から気に掛かっていたことが即座に理解できた。またもや、なるほど!である。すぐさまパワーショットG5を手に、雨の降る中里の林に赴いたのである。前々から気に掛かっていたこととはこの白い物体であった(写真上)。もうおわかりであろう。ヤモリの卵の殻なのである。2個並べて産むというのが通常の産卵習性であるというから、文字通りである。この卵殻の付いた金網の廂はコンクリート壁上部の高台にあり、仔細に観察できる位置に無いので、今までカタツムリの殻であろうかなどとぼんやり思っていたのである。この卵の殻を今日あらためてよく見ると産み落とされた段階で柔軟な卵は粘液でもって金属壁に密着していたことまでわかった。
さて、この遊歩道と林の境界に長く設えられた金網は、見方を変えればまさに「昆虫観察トラップ」とも捉えることができる。(ここでは景観の善し悪しの問題などは横に置いておこう)この金網の塀はコカマキリの産卵でもわかるように、雨風を凌ぐ頑丈な建造物の一面を持つ。自然界では岩とか大きな木のウロとかいった場所が本来あったはずであろうが、人の活動によってその多くは排除されてしまっているのが現状だ。しっかり雨風を凌げる場所を求めて多くの昆虫、生き物がこの金網の廂を代用せざるを得ないのである。採集にせよ観察にせよ昆虫の姿を望む者にとって、そうした金網塀はまさにお誂え向きの場所となる。塗装され直線的で平滑な金属表面は、観察台のごとく昆虫の姿を浮き上がらせてくれるのだ。林から林へと移動する昆虫の多くが、この「金網の長城」に足掛かりを得て、長らく滞在するも、隠れ家として利用するも不思議なことではない。とにかく安定した足場というものは様々な生き物にとって得難いものなのだ。この『ある記』のバックナンバーでも、アリのヘリポートとして林内の遊歩道の棒杭が利用されていたことに触れたが、他にもこうした棒杭を利用する昆虫は多い。棒杭や金網塀を「昆虫観察トラップ」と捉え直せば、そこには数多くの昆虫が出入りしかつ生活の場としていることに気付くのである。
とすればニホンヤモリにとってこの金網塀は、少なくとも産卵場所として、そして昆虫やクモといった食糧の供給の場としてうってつけの生活空間でもあるといえよう。では、ヤモリにとっての冬の暖房にあたる、風を凌ぐ以上のものがここにあるのであろうか?
それはもしかしたら水銀灯ではないかと思われる。唯一、熱源としてあるものは遊歩道に沿って等間隔にならんだ外灯であろう(写真下)。
私はコカマキリの産卵がこの金網塀に集中する現象を見て以来、様々な昆虫や生き物に出会うこの「昆虫観察トラップ」がいかにすぐれているかを実感しつつある。林に出向いた際にはまずこの金網に沿ってじわじわと歩き見るのだ。その様子は散歩する多くの人から見れば理解不能であっても不思議ではない。カメラを下げている格好が唯一、気狂い扱いされるギリギリのところで私を庇ってくれている。
今日は「昆虫観察トラップ」の効用の一例としてキタテハの蛹も撮影してみた(写真中)。金網に巻き付いたカナムグラで育ったキタテハ幼虫の多くは、葉を綴った巣のなかで蛹になるのであるが、この手間要らずの金属廂を利用する幼虫も少なからず見つかるのである。もっともこの写真の蛹は寄生蜂にやられた死骸であるが、他にも無事羽化した抜け殻は多い。
新開 孝