セミ採り

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[ 愛媛県 松山市 ]

長男が女子サッカーの決勝戦を観るというので、午前3時からテレビをつけた。

私は目をつぶって寝ようとしていたが、ずっと音声だけは聞こえていた。

2点取られたあと、1点を奪い返す直前あたりから、息子のイビキが始まった。

肝心なところを観逃していた。ロンドンオリンピックをリアルタイムで観たい、

という気にはなれないが、息子に仕方なく付き合わされた(男子サッカーも)。


昆虫撮影の仕事では午前3時ころに起きて待機する、ということも珍しくない。

とくに脱皮や孵化、羽化など変態シーンの撮影である。

徹夜をして万全を期す、ということは私の場合しないし、できない。

時間帯の当たりをつけて、そこでまあ大げさに言えば勝負に出る。

博打みたいな面もあるが、当たりをつける感は上達したと自分でも思う。

それでも読みきれないことは多く、何日も当たりを探り続けることも少なくない。

今朝は睡眠不足になって疲れただけだった。

女子サッカーがいよいよ試合終了間近になって、アブラゼミの鳴き声が聞こえてきた。

写真は昨日昼間に撮影したもの。

Z8090191.JPG一匹だけの鳴き声がしばらく続いてから、今度はクマゼミの大合唱となった。

もう布団から出るしかない。

クマゼミといえば、小学1年生のころ幼友達にくっついて行って、セミ採りをした記憶がある。

クマゼミは高い場所で鳴いていた。

友達はどこで手に入れるのか、釣竿になるような長い竹竿を用意して、

私にも一本あてがってくれた(と、思う。)

食料品店でとり餅(蠅とりの粘着シート)を買い求め(これも友達の財布に頼った)

竿の先端にベタベタと塗りつける。

採集場所は松山城下の堀之内。ここには虫採りでよく訪れた。

竿は長いがそれでもクマゼミの止まっている高さに届くポイントを探す必要がある。

これがけっこう辛い。暑いなか飲料水も持たず、私は「もう帰らん?」と

何度も弱音を吐く。

「なに言よるん。喉乾いたら、唾をひのんだらええんよ。水飲むのといっしょじゃろ!」

ええ!?と思うが、それもそうかなあ、とすぐ納得できた私もどうかしていた。

ようやく苦労して捕らえたクマゼミは哀れなくらい粘着剤でベトベトにまみれて、

私は興ざめした。それでも友達は次の獲物を求めて、唾をゴクんとひのんだ。

小学生時代、私はそれほど虫に興味は無かったのであり、

友人に付き合うのがせいぜいだった。

講演のあと、「小さいころから虫が好きだったんでしょうね」とよく聞かれるのだが、

じつはそうではなく、むしろ自然全般が恐いもの、だった。犬猫とも疎遠であった。

よく遊びに行った同級生の家ではスピッツを飼っていて、

遊びに行くと必ず追いかけられて小便を掛けられた。

友達はスペッシュウム光線と名付けて面白がったが、

毎回、犬の攻撃をかわして玄関に飛び込めるかどうか、スリル満点だった。

吠え立てるだけで噛み付きはしなかったと思うが、噛み付かれるという

恐怖心が強かった。

私の母親は大の犬猫嫌いで、その影響をもろに受けたのは間違いない。

自然音痴な私だったが、通っていた小学校のすぐ傍には県立博物館があって、

寄り道したり、日曜日に遊びに行くことが多かった。

ある日、奥の部屋で蝶の展翅をしている白衣のおじさんがいた。

窓ごしに中が見えるのでずっと眺めていたら、手招きしてくれて、

なぜか箱に入った新品の昆虫標本セットをくれた。注射器や虫めがね、ピンセット、

赤青の薬が入っているセットである。

野山で遊ぶことはほとんどなく、街中でずっと暮らしていたが、

私にとって、広大な暗闇の中にポツンと小さく灯っていたのが博物館だった、

のかもしれない。


( 写真: OM-D E-M5  ライカ45ミリマクロ ストロボFLー300R )



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