アヤヘリハネナガウンカ

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アヤヘリハネナガウンカ.jpg『新開孝の昆虫写真工房』のギャラリーに載せている写真から一枚。

たいへん美麗な輝きを放つこのアヤヘリハネナガウンカを撮影した場所は、
所沢市の狭山湖。1990年の7月19日だった。





アヤヘリハネナガウンカを見るのも初めてのことで、ずいぶんと興奮し、そしてどうやったらこの虫の特徴をうまく表現できるだろうかと、様々な撮影を繰り返したのも懐かしい。

自分では大発見だと喜んでいたのだ。こんな虫、まだ誰も撮影してないだろうと、、、、、。

当時はもちろん、銀塩フィルムのカメラしかなく、この写真はペンタックス645で撮影している。

現像所まで車で往復60分。何回も行き来しては、現像の上がりを見て一喜一憂した。
フィルム現像は早くて2時間かかる。だから現像出ししても、上がりを見るのは翌日以降となった。
よほど急いでいるときは、ラボの待合室で本を読んだりして待つこともあったが、2時間を潰すのはけっこう辛い。

最初は撮影意図を写真にうまく反映できずに失敗を繰り返したあと、なんとか自分でも満足のいく写真を撮ることができたわけである。
デジタルカメラであれば、そのような苦労もなかったはずだが、しかし、写真の基本を体で覚えることができたという意味では貴重な体験を得たと思う。

じつはこの写真、平凡社が昔出していた月刊誌「アニマ」が動物写真特集を組むたびに、何回か投稿したことがある。しかし、ついに採用されることなく年月が過ぎた。
このアヤヘリハネナガウンカの写真が日の目を見たのは、1996年に出版された『日本動物大百科8、昆虫Ⅰ』(平凡社)であった。撮影してから6年も経っている。

それからさらに月日が経って、2001年のある日。
書店で栗林慧さんの写真文集『栗林慧の全仕事』(学研)をふと手に取った。

昆虫写真家の大御所たる栗林さんとは面識がないが、若い頃に数多くの出版本から受けた影響は大きい(一度だけ忘年会の場でお会いしたことがあるが、簡単な挨拶しかできなかった)。
昆虫撮影のテクニックについても、じつに多くのことを学ばせていただいた。

さて『栗林慧全仕事』の頁をめくっていくうちに、なんとアヤヘリハネナガウンカの写真が載っており、
その写真を見た瞬間、私は腰を抜かさんばかりに驚いてしまった。

栗林さんの写真は、その構図、ライティングに至るまで、私が撮影した写真とかなり酷似していた。厳密に見ればもちろん違ってはいるが、、、、。
いや、それよりもまず、私はアヤヘリハネナガウンカなどを撮影して公表する写真家などは自分以外においてないだろう、とそう思い上がっていた。
そんなつまらぬ自負心があったのだ。
だからなおさら驚きも大きかった。

栗林さんは、私などよりはるか昔に、すでにアヤヘリハネナガウンカを撮影なさっていたのだ。
私はそのことをずっと知らずにいたのだ。なんという愚かさだろう。
知らなかったとはいえ、私は自分の写真にのぼせ上がり、出版物にまでデカデカと掲載し、なおかつ満足感に浸っていたわけである。

自分の無知さかげんに恥じ入ることとなった、
アヤヘリハネナガウンカの写真。

もはやかといって、この写真を封印するというのも筋違いかと思う。
むしろ、かつて思い上がった自分への戒めとして、あえてホームページのギャラリーにも掲載している。













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